投資家は安全策として金に投資し続ける
最近の価格上昇に伴い、政治的および経済的な不確実性の多くはすでに織り込まれていますが、金価格上昇の引き金となる要因は依然として残っています。例えば、極端に低い金利と債券利回りの低下、中国、欧州連合(EU)、米国間の貿易紛争、今秋の米国大統領選挙が挙げられます。 「さらに、中央銀行は引き続き買い手側にあり、投資家からの高い需要も維持されます」とヘレウスの貴金属取引事業部長であるハンス・ギュンター・リッターは述べています。ドル安の傾向と英国EU離脱(ブレグジット)の影響に関する不確実性もまた、継続的な金への強い関心につながっています。
しかし、特に中国とインドにおける重要市場での高値と弱含みの経済成長は、宝飾品の買い渋り傾向をもたらすと予想されます。ヘレウスは、2020年の金1オンスあたりの価格は、1400米ドル〜1700米ドルの範囲になるであろうと予測しています。
産業需要からの恩恵を受ける銀
銀は、金と同様に、先行き不透明な時代には、投資家が安全策としてこれら2種類の貴金属を検討するという事実が表すように、その恩恵を受けると考えられます。さらに、特に太陽光発電産業や第5世代移動通信システムである5Gの開発によるより高い産業需要によって、銀の価格は支えられるはずです。しかし、投資家の需要がそれほど強くない可能性が考えられるため、銀はパフォーマンスの面で引き続き金に遅れをとるでしょう。ヘレウスは、銀については、1オンスあたり16.25米ドルから21.00米ドルの範囲になるであろうと予測しています。
供給過剰が続く白金
ヘレウスは、鉱山からの白金の供給が1%減るとしても、主にディーゼル自動車の排気ガス用触媒に用いられる白金が供給余剰になるであろうと予測しています。白金は、その需要の約70%を占める自動車および宝飾品産業での低調さが弱点になっています。どちらの産業も、2020年に問題に直面する可能性が高いでしょう。その一方で、石油精製向けの需要がわずかに増加すること、また化学プロセスの触媒材料に用いられる需要が増加することは、いずれも期待されています。
投資家は昨今不調であった白金をその低価格のため再評価しており、金価格が堅調なため、この傾向は続くとされています。専門家は、業界が比較的安価な白金を、最近価格が急上昇したパラジウムに置き換えることは中長期的にないだろうと予測しています。ヘレウスでは、白金1オンスあたり800米ドルから1050米ドルの範囲になるであろうと予測しています。
2020年にも大きく価格変動する可能性が高いパラジウム
パラジウムの不足は構造的なもので、2020年も依然として続くでしょう。ヘレウスでは、約18トンの供給不足を予想しています。パラジウムの需要は主に自動車業界からのものであり、81%も占めています。パラジウムはガソリンエンジンの排ガス用触媒に使用されています。たとえ自動車の販売が減少したとしても、ガソリンエンジンに用いられる触媒は一層増え、予想される減少量を相殺する以上の量になると考えられます。中国やインドにおいて、将来的により厳しくなるとされる排気ガスの排出基準は、パラジウムの需要がさらに高まるであろうことを示しています。また、パラジウムの重要な生産国である南アフリカで停電が長期化していることを受け、その生産が麻痺し、供給を減少させる可能性があり、その結果、価格の上昇が論じられています。
しかし、パラジウムは、自動車産業の好不調に強く依存していることがリスクの一つとされています。米国と中国の両経済大国間の貿易の縮小傾向でさえ、価格の動向を根本的に変える可能性があります。ヘレウスでは、微細なパラジウムの1オンスあたりの価格は、1800米ドルから2800米ドルの範囲になるであろうと予測しています。
変動しながらも上昇し続けるロジウム
上昇の終わりは予測できませんが、ヘレウスでは価格が激しく変動すると予測しています。自動車産業からの圧倒的な需要は、新しい厳格な排出基準のために多くの地域で高いレベルにとどまる可能性が高いでしょう。しかし、この状況は、別の供給不足につながる可能性が高いことを示しています。生産の80%が減少している南アフリカの鉱業会社がさらに生産を減少しなければならない場合、ロジウムの価格はさらに上昇する可能性があります。同国は深刻な供給危機にあり、かつ停電が何度も発生しています。ヘレウスでは、今年の取引価格は、1オンスあたり5,000米ドル〜12,000米ドルの範囲になるであろうと予測しています。
今回のヘレウスによるレポートについて日本法人へレウス株式会社 代表取締役社長 山内秀人は、「貴金属は日本が強みを持つ産業、特にEVを含む自動車やエレクトロニクスに欠かせない資源です。世界最大手の貴金属サプライヤーの一角として、ヘレウスはその安定供給とリサイクルに努めると共に、市場動向に関する発信を積極的に行っていきます」と述べています。