安全な投資に対する強い需要が金価格を支える
年初以来、金は安全な資産クラスと見なされその恩恵を受けています。ヘレウスの貴金属取引事業部長であるハンス・ギュンター・リッターは、「国債の低利回りもしくはマイナス利回り、前例のない財政・金融政策の刺激により、投資家の間では安全性に対する高いニーズが生まれている」と説明しています。しかし、金の記録的な価格と新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の世界的流行に伴う経済の歪みが、消費者の需要を極度に圧迫しています。鉱山の生産量もCOVID-19の影響で今年は微減する可能性が高いでしょう。
消費者需要が低迷しているにもかかわらず、旺盛な投資家の需要が金価格を支えています。政治的・経済的な不透明性はすでに大いに含まれており、金価格は低位に留まる可能性が高いでしょう。「しかし、パンデミックは今なお収束しそうになく、経済状況の悪化が続けば、中央銀行は金融政策をさらに緩和する可能性があるでしょう」とリッターは述べています。ヘレウスでは、2020年末までの残りの期間、金1オンスあたり1850~2200ドルの範囲で推移すると予想しています。
銀価格は高値を維持
7月の銀価格の急な高騰は、金の価格が高騰し過ぎると感じていた投資家の関心が再燃したことを明確に示しています。ヘレウスは、世界の銀生産量の減少を予想しており、特に中南米の主要国での生産の中断により悪化すると考えています。たとえ工業製品の需要が回復したとしても、投資家の関心が高いままであれば、銀は金よりも好調に推移するでしょう。ヘレウスは、銀の場合、2020年の残りの数ヶ月間は1オンスあたり22.50~35.00米ドルの範囲で推移すると予想しています。
白金は供給過剰にもかかわらず、価格を維持
主にディーゼル自動車の排気ガス用触媒に用いられる白金は、パンデミックの影響で生産量が減少していますが、今年は100万オンス(31.1トン)以上の余剰(投資需要を除く)を見込んでいます。自動車産業や宝飾産業の低迷は、全体の需要が大幅に減少する引き金になっています。また、COVID-19の影響で多くの化学工場での生産が減少しているほか、中国での生産能力増強の停滞により、白金触媒の需要が減少すると見られています。投資需要を除けば、基本的な見通しは依然として弱い状況です。ヘレウスでは、白金1オンスあたり850~1050ドルの範囲になると見ています。
パラジウム供給量はコロナの影響をそれほど強く受けず
ヘレウスは、2009年以来初めて、今年のパラジウム市場が均衡すると予想しています。供給は需要よりもパンデミックの影響を受けておらず、市場は均衡に近づいています。ロシアのパラジウム生産は、ノルニッケル鉱山が遠隔地にあるため、今年もほとんど影響を受けないでしょう。
一方、ガソリン車の最大市場である中国は回復しつつあるようです。パラジウムの需要は主に自動車産業からのもので、消費の81%を占めており、パラジウムはガソリンエンジンの排ガス用触媒に使用されています。世界の多くの国で排ガス規制が強化され、排ガス触媒の白金族金属(PGM)の使用量が増えるため、需要減の一部は相殺される可能性が高いでしょう。一方、化学産業からの需要は減少すると見られています。ヘレウスでは、パラジウム1オンスあたり1750~2350ドルの範囲になると見ています。
ロジウムは依然として希少性が特徴
コロナにより需要が落ち込んでいるものの、供給にも影響が出ており、今年もロジウムの不足が続くと予想されています。 ロジウムの供給は、白金やパラジウムよりも影響を受けやすいと見られています。ロジウムの生産は南アフリカに集中しており(81%)、南アフリカはパンデミックの影響を最も受けている鉱山地帯です。ロジウムもまた、中国の自動車市場の急速な回復からの恩恵を受けるでしょう。ヘレウスでは、ロジウムの今年の取引は1オンスあたり8000ドルから1万3250ドルの範囲になると見ています。