ガラス成形プロセスへの赤外線加熱の応用

輻射加熱の原理
図1:輻射加熱の原理

はじめに

ガラス成形プロセスで赤外線加熱が注目されてきている。従来、赤外線ヒーターはコーティング乾燥、ラミネートガラス工程など、ガラス製造工程でも比較的に低温領域で利用されてきた。赤外線加熱においてはガラス成形温度の700℃は高温領域にあたり、過去には赤外線加熱をあまり検討されてこなかった。しかし、スマートフォンなどに代表される多くの工業製品で曲面ガラスの採用の増加に伴い、高出力赤外線による「ガラスの急速加熱」の開発が取り上げられてきた。

薄板精密成型の技術開発は勢いを増してきているが、一般にガラス成形には、溶融ガラスを直接金型に流し込み成形するダイレクト成形と、薄板ガラスを再加熱して成形するリヒート成形がある。赤外線ヒーターはリヒート成形に利用されているので、ご紹介したい。

輻射加熱の原理と特長

初めに、輻射加熱の原理を簡単に説明する。赤外線は電磁波の一種で、ある波長を持った光エネルギーである。図1のように光源から輻射された赤外線光は目的物に照射され、その物質の中でエネルギーが共振吸収される。吸収されたエネルギーは分子(または原子)を振動させ、振動させられた分子間で摩擦熱が発生する。これが赤外線加熱原理である。熱伝導を利用した金型加熱・プレート加熱、あるいは対流加熱を利用した電気炉とは違い、熱エネルギーを伝えるのに媒体を必要としない。

赤外線ヒーターの種類

工業用に用いられる電気赤外線ヒーターは、波長範囲で1~4μm、温度範囲で500~2600℃の赤外線である。日本では遠赤外線と近赤外線という2つの表現が一般的だったが、十分な表現ではなかった。最近では、遠赤外線、中赤外線、近赤外線という3分類の表現が見受けられる。表1を参考されたい。

赤外線の波長として用いられるのは「最大エネルギー波長」である。ウィンの変位則によって求められる。

λ = 2897/T = 2897/(t+273)

λ:最大エネルギー波長、 T:発熱体絶対温度(˚K)、 t:発熱体温度(℃)

赤外線ヒーターの種類と性能比較表

下グラフは光源温度と波長の関係を同一出力で換算したイメージ図である。なお、可視光は振動エネルギーとして吸収されないため加熱には寄与しない。

赤外線ヒーターの種類と性能比較表
光源温度と波長の関係を同一出力で換算したイメージ

技術ポイント

薄板ガラスのリヒート成形にはプレス成型機を用いるが、まず問題になるのは板ガラスの加熱で、成形可能な温度とされる約700℃まで加熱する必要がある。従来の設備では電気炉を用いてきた。しかし、生産性アップ、自動化などには困難があると言われている。成形前ガラス加熱に求められるのは、次のとおりである。

  • 成形温度 約700℃
  • 急速加熱 および ステップ加熱
  • 均一加熱 および 部分加熱のコントロール
  • タクト加熱への対応
  • 基材ハンドリングを考慮し、オープンスペースでの加熱

電気炉は代表的な加熱方法であり、均一加熱では実績の高い手法といえる。しかし、目的温度にセットするだけの炉では急速加熱はできない。もちろん、1基の電気炉では温度ステップを組んだ加熱プロセスは不可能に近い。またプレス成形機へのガラス搬送を考えると、密閉式の電気炉では機械的制限があり、自動化ラインにも不利だといえる。これらの課題を赤外線加熱で克服できるのかがポイントと言えよう。

赤外線ヒーター種類の選定

赤外線ヒーターの種類選択には幾つかのポイントが挙げられるが、「輻射波長-吸収率」と「輻射温度」のファクターが重要である。先に述べた低温領域のアプリケーションでは、「輻射波長-吸収率」のファクターが重視されてきた。ガラスの吸収波長に合った中波長赤外線ヒーターの加熱効率が高く、市場での採用実績も高い。

それに対しガラス成形プロセスでは「輻射温度」が重要となる。例えば、オープンスペースで成形温度700℃を得るためには、中波長赤外線ヒーターの光源温度900℃では低すぎる。エネルギーは高い所から低い所にしか移動しないため、十分な温度差を考えた赤外線ヒーターを選ばなければならない。弊社では短波長赤外線ヒーターを採用している。

オープンスペースでの700℃加熱成形への挑戦

オープンスペースでの700℃加熱への挑戦

電気炉とは対照的に、赤外線ヒーターはオープンスペースで使用するのが特徴である。しかし、オープン状態で700℃まで加熱が可能であろうか。ヘレウス高出力赤外線モジュールは金属・ガラス加熱において700~900℃加熱を実現している。写真は弊社アプリケーションラボの実験の様子であるが、水冷式ユニットに短波長赤外線ヒーターを組込み、片面のエネルギー密度250kW/m2で、効率を上げるために反射面には金メッキを採用している。

赤外線ヒーターの配置について

プレス成型には板材の均一温度が求められる。均一加熱で重要なポイントは、照射分布を考慮した「ヒーター配置」である。均等ピッチで赤外線ヒーターを配置すると、理論的に中央部の照射エネルギーが高くなる。並行照射型の反射板を採用したとしても、この傾向は同じである。弊社アプリケーションラボの実験機の写真をご覧いただければわかるが、中央部と端部のピッチは調整している。この配列ピッチは照射距離との関係で決まってくるが、弊社独自の照射分布シミュレーションによるものである。なお、応用例になるが、面内均一加熱ではなく2辺もしくは4辺を強く加熱したいとの要望もあり、ヒーター配列および出力バランスのシミュレーションもしている。

赤外線ヒーターの出力について

弊社では高出力赤外線モジュールとして250kW/m2を達成している。実験機は両面加熱も可能で、総出力500kW/m2を得ることができるが、実際の薄板ガラスの再加熱では片面加熱でも十分で、また採用例が多い。

赤外線吸収波長

反射板について

ガラスは透明材料であり、赤外線吸収が良い材料ではない。照射された赤外線の多くが透過する。特に薄板であればその傾向は強い。透過した光エネルギーをロスにしないために、反射板は重要な働きを持つ。しかし、反射板自身も加熱されることを忘れてはいけない。反射板の冷却は必須である。冷却を施さなければ反射板も高温となり、極めて短時間で赤外線ヒーターは故障する。安定して使用するためには反射板を水冷するのが反射板の反射率を高めることも、加熱効率向上に有効である。金は赤外線領域においてアルミよりも反射率が高い素材である。かつ化学的にも安定しており、使用中での腐食の心配も少ないのが特徴である。弊社はこのプロセスに対しては、金メッキの採用を推奨している。

まとめ

ガラス成形プロセスでの赤外線加熱は、まだ開発段階である。対象となる分野が今後広がっていけば、加熱プロセスに課せられる要望も変わってくるであろう。ヘレウスではそのような要望に対する新しい加熱ソリューションを常に提供していく考えである。

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