UV硬化プロセス上で直面する色々な課題とその解決策
その2:酸素による硬化阻害について

1. はじめに

このシリーズ第二回目以降は、UV硬化プロセス上で発現する現象や課題における、その発現のメカニズムや技術的対応策について具体的に紹介する。前回も述べたが、このUV硬化技術は、成熟技術とみなされている反面、まだまだ解明されていない現象も多々あるため、本稿で紹介できる内容は、ほんの一部にすぎないことを予めご了解いただきたい。

2. ラジカル硬化反応における酸素による硬化阻害について

図1:UV照射により得られたアクリル基二重結合の転換率のコーティング厚依存性
図1:UV照射により得られたアクリル基二重結合の転換率のコーティング厚依存性。C. Decker et al., Makromol Chem., 189, 2381(1988).

ラジカル硬化型の材料が酸素の硬化阻害を受けること、そしてその程度は、薄膜であればあるほど、より顕著に現れることは、UV硬化プロセス上では既知の現象である。過去にUV硬化材料が硬化反応に際して、深さ方向にどの程度、表層の酸素の影響を受けるかを調べた興味深い報告があるので紹介する。これは、フランスのChristian Decker先生が1988年に発表された論文の一部にある結果であるが、シンプルで明快な結論が導き出されている。図1に結果のエッセンスとなる図を示した。

この結果は、3μmから30μmまでコーティング厚を変えた材料を調整し、ある一定時間UV照射を行いアクリル基の二重結合の消失量を測定した結果である。厚さ3μmでは、10%にも満たなかった転換率が、30μmの厚さでは、約70%の転換率を示している。薄膜状態では、いかに表層の酸素が大きく硬化阻害に寄与しているかを示しているが、筆者の論点は、この点だけではなく、たとえ30μmのコーティング厚の材料が全体として約70%の転換率を示しても、表層の深さ3μmの領域の転換率は10%に満たないことを示唆しているという点である。同様に深さ6μmの領域の転換率は、せいぜい20%程度となる。すなわち、酸素存在下でのUV 硬化反応では、生成する硬化物の状態やミクロ構造が、表層部と深部とでは大きく異なっていることを示唆している。弊社内でさらに詳細に同様な方法で深さ方向のアクリル基二重結合の転換率を測定した結果、表層から25μm程度の深さまでは、硬化反応は少なからず表層の酸素の影響を受けていることが明確となった。

次に酸素が硬化阻害を引き起こすメカニズムについて述べる。このメカニズムを理解する上で、図2に示す酸素分子の電子配列と酸素分子の有する不対電子のスピン状態を再度確認しておくことが重要である。

図2: 酸素分子の電子配置と酸素原子の電子軌道

図2より、酸素分子の特徴的な点として、(1)2つの不対電子を有していること、(2)2つの不対電子のスピンが同じ方向を向いていること、が挙げられる。すなわち、(1)は、酸素分子そのものがビラジカル的な性質を有していること、(2)は、酸素分子は、基底状態で三重項状態であることを意味する。従って、酸素分子は、UV硬化プロセス(光化学プロセスならびに暗重合プロセス)において反応阻害因子として働く。

以下に各硬化プロセスの粗反応に関与する酸素の影響と大まかな反応速度定数を示した。

光化学プロセス(活性種生成プロセス)

1) 光化学プロセス(活性種生成プロセス)

開始剤の光開裂反応による活性種生成プロセスの多くは、励起三重項経由の反応であり、基底状態で三重項状態である酸素が存在すると非常に速い速度(拡散律速)で三重項―三重項エネルギー移動が起こり、開始剤の励起三重項エネルギーが酸素に移動し、励起状態の開始剤が基底状態に失活する。酸素により消光されなかった励起状態の開始剤は、開裂反応を起こしラジカルを生成する。

硬化反応開始プロセス

2) 硬化反応開始プロセス

1)のプロセスで生成したラジカルは、アクリル基を攻撃しアクリレートラジカルを生成するのが硬化開始プロセスであるが、酸素が存在すると、この開始速度の103~104倍以上の速さでビラジカル構造を有する酸素が開始剤ラジカルと再結合(ラジカルカップリング反応)を起こし、過酸化物ラジカルを生成する。この過酸化物ラジカルは、安定であり再び重合(硬化)を開始する能力はなく、過酸化物ラジカルが生成した段階で硬化反応は停止する。

 生長反応プロセス

3) 生長反応プロセス

生長反応プロセスにおいても、酸素分子が生長末端ラジカルと拡散律速で再結合し、過酸化物ラジカルを生成する。この場合も末端の過酸化物ラジカルが安定であるため、硬化反応は停止する。

以上のように、酸素は、開始活性種の生成プロセスから重合性生長プロセスまで、すべてのプロセスに関与し、硬化反応を阻害する要因となる。このような酸素の影響を排除するためには、窒素等の不活性ガス(イナート)環境下で硬化反応を行う必要がある。

しかしながら、現実のUV照射プロセスではイナート環境下でのUV照射だけでなく、UV硬化反応の反応率を空気下(酸素存在下)で向上させる手段を検討する必要がある。図3に過去に弊社にて測定したHDDA(ヘキサメチレンジオール・ジアクリレート)に1%の2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンを開始剤として添加した系のフォトDSC(示差走査熱量測定)の結果を示す。図3(a)は、HDDAの系に照度を50~1000mW/cm2まで変化させ、合計100mJ/cm2のエネルギーを照射した際に観測される発熱量である。前章でも述べたように、照度が上昇するにつれて、アクリル基二重結合の転換率も上昇するため、同じエネルギー量を照射しても照度の高いほうが高い発熱量(重合熱)を示しているのがわかる。

図3:HDDAのフォトDSC測定による発熱挙動の比較、(a)空気下での発生する重合熱の照度依存性、(b)窒素イナート環境下と空気下の発熱挙動(発熱の立ち上がり速度)の比較

図3(b)では、窒素イナート環境下と空気下でのUV照射による重合熱の発生の初期状態の照度依存性をした。低照度照射(例えば50mW/cm2)では、空気下と窒素イナート下では、重合熱の立ち上がり速度のギャップは、非常に大きいが、照度を上げて生成する活性種濃度を高くすることによりこのギャップは縮小する傾向を示す。従って、硬化速度やアクリル基の二重結合転換率で視る限り、高照度で照射することにより、酸素による硬化阻害の影響は低減できるといえる。ただし、酸素存在下での反応スキームでも示したように、酸素存在下でのUV照射では、過酸化物の生成が必ず伴うため、得られた硬化物の表面状態は、イナート環境下で得られたものとは異なることに留意する必要がある。

以上、UV硬化プロセスにおける酸素の硬化阻害について述べてきたが、酸素は、硬化阻害だけでなく、黄変の発現や酸化・劣化などいろいろな現象にも関与している。UV硬化プロセスにおいて、酸素の関与を如何に制御するかという課題は、反応熱の制御を含め、ラジカル硬化プロセスに常に存在する大きな課題のひとつである。