知っておきたい加熱の種類:輻射加熱

生産工程に欠かせない加熱とは、被加熱物に熱を与えることを意味します。加熱には、大きく分けて直接加熱と間接加熱があります。

「直接加熱」は、対象物に電気などのエネルギーを与えることにより直接加熱する方法で、金属を対象とした抵抗加熱と誘導加熱があります。一方、「間接加熱」は、対象物とは違うところで作った熱エネルギーを対象物へと移動させる方法になります。熱が高温側から低温側へ移動するという現象を利用したもので、その移動方法にはさらに、「伝導」「対流」「輻射」の3つの種類があります。この3つの特長や違いを理解することが大変重要となります。

輻射加熱を代表とする間接加熱

伝導加熱とは

伝導加熱のイメージ

伝導加熱とは、物質の移動を伴わない熱の移動を意味します。熱源に対象物を直接接触させて、熱伝導で加熱する方法となります。調理に例えると、火にかけたフライパンで炒めること、または焼くことがこれに当たります。この原理を用いた生産現場での例は、熱板や加熱ロールになります。

この方法は、熱源がもつ熱レベルをそのまま利用するシンプルで分かりやすい加熱方法です。しかし、加熱源と対象物を接触させる必要があるため、実際の工業生産プロセスでは制限を受ける場合があります。また、加熱源の温度を設定し管理できても、加熱対象物の実温度の管理は難しいと言われています。

対流加熱とは

対流加熱のイメージ

対流加熱とは、物質の移動を伴う熱の移動を意味します。熱をいったん媒体に預け、その媒体から熱エネルギーを対象物へと運ばせる方法となります。調理に例えると、鍋にお湯を入れ茹でること、または煮ることがこれに当たります。この原理を用いた生産現場での例は、対流炉(温風炉)になります。

この方法は、自由自在に温風を運べる特徴があるため、対象物から離れた位置に熱源を設置でき、工業界では安全な加熱方法として認識されています。小さな熱源でも、大きな空間に対応できます。

日本には優秀な対流炉メーカーが多く、温度安定性、温度均一性を有した設備が供給され、主に日本のフィルム市場を支えてきた大切な技術となっています。しかし、小さな熱源のエネルギーを大きな空間へ分配するので、熱エネルギーは「薄まり」ます。熱源としては高い熱エネルギーを持っていても、媒体である空気に熱を伝えるため、薄まった(下がった)熱エネルギーしか利用することができません。実際の生産ラインでは、低温領域での使用や温度をキープするゾーンには非常に有効的ですが、急速に加熱する、または高温に加熱するというプロセスには、他の方法よりも不利となります。

また、媒体をある空間に留めてはじめて能力が発揮されるため、必ず空間、つまり炉体が必要となります。安定した対流空間が温風炉としての性能を左右し、その空間を整えているのが炉体になります。工業界では近年、フットプリント削減の要望が高まっていますが、これに反して問題を抱える要因となってきています。従来の対流加熱技術が優れているため、「加熱すること=炉体が必要」という先入観が存在するようですが、実際には、炉体を必要としているのは「対流加熱だけ」になります。

輻射加熱とは

輻射加熱

輻射加熱とは、熱源から出てくる赤外線を対象物に輻射して加熱する方法です。身近な例ですと地表に届いた太陽の熱がこれに当たります。

赤外線は波長の長い光(以下の図を参照)で、高温の熱源からは強い振動エネルギー、つまり赤外線の中でも大きい振動数の光が、低温のものからは弱い振動エネルギーであるより小さい振動数の光が放射されます。 これを波長で考えると、高い温度からは短波長の赤外線が、低い温度からは長波長の赤外線が放射されることになります。

この赤外線というエネルギー線は、熱源自体が持っている固有のエネルギーそのもので、本来熱源が持っているエネルギーレベルをそのまま対象物に作用することができます。工業界で利用されている電気式赤外線ヒーターの一般的な熱源温度は500~2600℃なります。2000℃の熱板や対流では難しいですが、赤外線では容易に高いエネルギーを利用することができます。そのため、高温や高速に大きな強みを持っています。また、非接触で熱を伝えられることも強みです。雰囲気を閉じ込める炉体は不要で、オープンな環境下で使用できることも特長です。小さいスペースに高いエネルギーを配置できるので、フットプリントにも有利です。

しかし、輻射は温度という指標では管理しにくいという課題があります。本来でしたら、赤外線を用いた加熱または乾燥プロセスは、対象物の加熱・乾燥状態を管理すべきですが、その測定が難しいため、多くの場合、代理温度で工程管理します。

光のスペクトル