HACCPとは?今後求められる食品衛生管理について解説

HACCPとは食品の衛生管理において重要なメソッドであり、日本では2021年から義務化されています。この記事ではHACCPの概要を踏まえ、従来の衛生管理との違いや導入の手順について紹介します。下記に該当する方はぜひ参考にしてみてください。

  • HACCPによる衛生管理について詳しく知りたい
  • 自社で対応していかなければならない今後の衛生管理に関するトレンドについて知りたい

目次構成

HACCPとは?【概要】

「そもそもHACCPってなに?」という方もいると思います。まずはHACCPの概要について紹介します。

HACCPとは、食品の安全を担保するための衛生管理手法です。国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)の合同機関である国際食品規格(Codex委員会)から発表された国際的なメソッドです。

「危害・分析・重要・管理・点」の頭文字を取ってつけられた名前であり、原材料の入荷から製品の出荷まであらゆる工程で発生するであろう危険を分析し、それらを防ぐために管理の実行や記録まで行います。日本の食品を扱う全業者は、HACCPによる衛生管理が法律上2021年から義務化されています

  • H:Hazard(危害)
  • A:Analysis(分析)
  • C:Critical(重要)
  • C:Control(管理)
  • P:Point(点)

特に「加熱」「冷却」「包装」の段階で異物が混入していないか、温度管理は問題ないか、殺菌はしっかりと行えているかなどを重点的に確認します。万が一危険要因があると判断された場合は、その危害に対して対策を行い、最後に管理基準に沿って測定・記録をし、これらの工程を繰り返すことで衛生管理ができているとみなされます

紫外線殺菌の仕組み

紫外線(UV)にはさまざまな波長があり、波長の長さによってUV-A、UV-B、UV-Cの3種類があります。紫外線殺菌は、UV-Cの紫外線を対象物に照射することで、対象のDNAの鎖を変化させ増殖を防ぐ手法です。

紫外線殺菌に有効な波長は200nmから300nmであり、280nm未満の短い波長域である紫外線UV-Cには高い殺菌効果があります。細胞内のDNAには260nmの波長付近に光の吸収帯があり、DNAが紫外線を吸収することでDNA構造が破壊されます。これにより、生きている細胞は不活性の状態となり、増殖ができなくなります。

なお、UV‐Cは自然界ではオゾン層で吸収され地表までほとんど届かないため、生物は生きていくことができます。

紫外線殺菌が注目されている背景

紫外線殺菌は、食品衛生に関する分野で特に注目されています。

その背景として、昨今、食の安心・安全意識の高まりにより食品衛生の必要性が増しており、高度な殺菌レベルが求められていることが挙げられます。

食品の衛生を保つためには、食品が腐ったりカビが生えたりしないように食品の保存性を高める必要があり、そのためには無菌の環境において殺菌した食品を無菌化した包装材料で包装することが重要です。

「熱殺菌」は実績の高い手法ですが、熱を掛けられない食包材などに対応できません。そこで、低温で高い殺菌効果が期待できる「紫外線殺菌」などが注目されているのです

厚生労働省「HACCP(ハサップ)」を参考に作成

画像:厚生労働省「  HACCP(ハサップ) 」を参考に作成

HACCPの制度の全体像

原則としてすべての事業者はHACCPに則る必要がありますが、以下のように取り組む内容は事業者によって異なります。

    • HACCPに基づく衛生管理・・・HACCP7原則に基づき、事業者自らが、危害要因分析や計画・管理までを行う。
      <対象事業者>大規模事業者/と畜場(と畜場設置者・と畜場管理者・と畜業者)/食鳥処理場(認定小規模食鳥処理業者を除く食鳥処理業者)
    • HACCPの考え方を取り入れた衛生管理・・・各業界の団体が作成した手引書に基づき、 簡略化された衛生管理のみを行う。
      <対象事業者>小規模な営業者等

※出典:「  HACCP(ハサップ) 」(厚生労働省)

HACCPと従来の衛生管理との違い

HACCPが義務化されるまでは、もともとの食品衛生法に則って衛生管理を行っており、HACCPとは明確な違いがありました。

従来の方法では、出荷前に抜き取り検査を行うことで品質をチェックしていましたが、一部しか検査がされないため、検査から抜け落ちている製品が市場に出回る恐れがありました。万が一抜き取り検査で問題があった場合、同様のラインで製造した製品は安全性が欠けている恐れがあるため、すべて破棄されるというケースも多かったようです。

HACCPと従来の衛生管理の具体的な違いをまとめると以下のようになります。

<具体的な違い>

  • 抜き取り検査ではなく、プロセス全体で危害を察知、対応すること
  • リアルタイムで監視を行い、対処すること
  • 「危害要因の分析」と「文書化・記録化」をすること
    • 以前はガイドラインに沿って衛生管理を行うだけでよかった
  • 重要管理点について、より厳しい基準で管理すること

また、HACCPの導入によって以下のような効果・メリットがあります。

<効果・メリットの例>

  • 品質の安定化
    • どの工程で問題が発生したか明確にできるため、対策ができる
    • 品質が安定すると、クレームが減少したり、生産効率が高まったりといった効果が期待できる
    • 検査に問題があったときにすべて破棄しなくてよいため、品質の安定だけでなく、食品ロスを減らすことにもつながる
  • 従業員の意識向上
    • プロセス全体で危害を察知・対策するため、衛生管理の意識を向上させることが可能
  • 企業のイメージ向上
    • 世界的に義務化が進むHACCPを導入しているということは、安心感や信頼性につながる

HACCPの義務化までの流れや背景

HACCPが義務化される前の2018年6月に「食品衛生法」が改正され、2020年6月に原則としてすべての食品業者がHACCPに沿った衛生管理を義務付けられました。猶予期間は1年あったため、正式には2021年6月から原則としてすべての食品事業者に適用されました。

義務化の背景には様々な要因があると言われていますが、主に国際的な衛生管理から後れを取っていることが挙げられます。食品安全規制の標準化が国際的に必要になったことから日本にも普及されました。また、日本の健康被害の量が減っていないことや、大企業だけでなく中小企業にも取り組んでもらうよう普及を行うことも義務化の要因として挙げられます。

HACCP導入の手引き

HACCPを導入するメリットとして主に「品質の安定化」「従業員の意識向上」「企業のイメージ向上」の3つがありますが、導入するには手順や認証機関について把握しておかなければいけません。

主な手順や認証機関については以下の通りです。

HACCPを導入するための手順や原則

主な導入の手順や原則は以下の通りです。

  • 手順1:HACCPのチーム編成
  • 手順2:製品説明書の作成
  • 手順3:意図する用途及び対象となる消費者の確認
  • 手順4:製造工程一覧図の作成
  • 手順5:製造工程一覧図の現場確認
  • 手順6 【原則1】:危害要因分析の実施(ハザード/HA)
  • 手順7 【原則2】:重要管理点(CCP)の決定
  • 手順8 【原則3】:管理基準(CL)の設定
  • 手順9 【原則4】:モニタリング方法の設定
  • 手順10 【原則5】:改善措置の設定
  • 手順11 【原則6】:検証方法の設定
  • 手順12 【原則7】:記録と保存方法の設定

HACCPの導入を認証する機関がある

HACCPは衛生管理をするための仕組みであり、実際にHACCPに準拠している場合は、第3者に認証してもらう必要があります。認証の団体は地方自治体、業界団体、民間機関があり、適用範囲もそれぞれで異なります。

地方自治体の認証は各都道府県や市が独自で定めた基準を用いているため、規模が小さな企業でも比較的取得しやすいです

業界団体の認証は食品事業に関する業界別で設けており、製麺や惣菜、菓子など、業界に属する団体が認証を行っているため、自社に展開する製品にあった認証を受ける必要があります

民間審査機関の認証は国際標準化機構(ISO)によるISO22000や、それをベースにしたFSSC22000などがあります。いずれも国際的な認証となっていることから、認証を取得できれば大きな信頼を得られます

世界の衛生管理状況は?HACCPの準拠に重要になる食品包装材の殺菌

食品の衛生管理は欧米の方が進んでいる傾向にあります。実際にHACCPの適応は、2000年に入る前にカナダやオーストラリアでは義務付けられており、アメリカやEUでは2010年ごろには義務化されていました。その中で日本の義務化は2021年に行われたことを考えると、日本でのHACCP導入は周りの国々に比べて一歩遅いと言えるでしょう

国名 概要
アメリカ 1997年
2011年
一部の食品にて、HACCPの衛生管理が義務化。
食品安全強化法が成立し、製造~保管までHACCPの考え方を取り入れた措置の計画や実行が義務化された。
カナダ 1992年 水産食品や食肉製品において、HACCPによる衛生管理が義務化。
オーストラリア 1992年 輸出向けの乳製品・水産食品・食肉製品において、義務化。
台湾 2003年 水産食品、食肉製品、乳加工品について、順次HACCPを義務付け。
EU 2006年 加工されていない食品を除いたすべての生産や加工・流通事業者についてHACCPを取り入れた衛生管理が施行された。
韓国 2012年 一部の食品において、順次HACCPによる衛生管理を義務付け。
日本 2020年 食品衛生法の改正により、HACCPの義務化が開始。

前述したように、HACCPは特に工程の中の加熱・冷却・包装部分において危害の要因分析や管理・記録を行うため、衛生状態を保つために食品包装材の殺菌は重要視されるべき点です。HACCPに沿った衛生管理はもちろんのこと、欧州では殺菌レベルの向上が求められており、いずれ日本においても同じレベルを求められることが予想されます

その一例として、実際に欧州食品安全機関(EFSA)が2022年に「食品接触を意図したリサイクルプラスチック材料及び成形品」に関する新しい委員会規則を採択し、食品包装の安全性に関する規則が定められました

早くから欧州の求められるレベルに対応しておくことは重要であるため、今後求められる食品包装材の殺菌については以下の資料にまとめました。ご興味のある方はぜひご覧ください。

ホワイトペーパー「【容器充填機械メーカー向け】今後求められる食品包装材の殺菌とは」

ホワイトペーパー 【容器充填機械メーカー向け】今後求められる食品包装材の殺菌とは

「HACCPでの衛生管理方法を知りたい」「自社の今後の衛生管理にかかわる技術トレンドを知りたい」とお考えの方向けのお役立ち資料