UV硬化プロセス上で直面する色々な課題とその解決策
その4:UV硬化プロセスにおける熱の制御について

1. はじめに

UV硬化プロセスにおいて、しばしば直面する大きな課題は、UV照射プロセス中に発生する熱による変形やシワの発生などの基材へのダメージである。特に近年は、フラットパネルディスプレイに用いられる光学機能フィルムは、薄型・軽量化の要求により基材フィルムの薄型化が急速に進行しており、UV硬化プロセスにおける熱制御は、重要な課題となっている。

かつては、機能性コーティングの世界では、PETフィルムが代表的な基材であったが、近年では用途に応じて、様々なフィルムが使われるようになった。参考のために、図1に各プラスチックフィルムのプロセス許容温度を示した。

図1:各プラスチックフィルムのプロセス許容温度

図1からは、各フィルムは、比較的広いプロセス許容温度を示しているようにみえるが、実際はTACフィルムのように55℃で変形が観測されるフィルムもある。実際のフィルムコーティングに際しては、使用する基材フィルムの貯蔵弾性率の温度依存性を調べることにより、重要な知見を得ることが多い。一例として、PETとTACフィルム(厚さ:80μm)のDMA(動的粘弾性測定)により測定した貯蔵弾性率の温度依存性を示した。

図2:DMAにより得られた基材フィルムの貯蔵弾性率の温度依存性、(a) PETフィルム、(b) TACフィルム

図2(a)のPETフィルムの貯蔵弾性率の温度依存性をみると、約80℃近傍の変曲点(Tg)あたりまでは、温度上昇に伴う貯蔵弾性率の変化は比較的少なく、変曲点以上の温度になると急速に貯蔵弾性率が低下していく。このことから、PET基材上でUV照射を行う場合、UV照射中の基材温度が80℃以下であれば、フィルム張力が働いている場合でもUV照射による基材の変形を引き起こすリスクはかなり低いと考えられる。一方、図2(b)のTACフィルムの貯蔵弾性率の温度依存性をみると、PETフィルムに見られたような変曲点は存在せず、温度上昇に伴い、急速に貯蔵弾性率が低下していくのがわかる。このような挙動を示すフィルムを扱う場合は、UV照射プロセスに限らず、すべてのプロセスにおいて基材の温度変化を最小限にとどめる必要がある。

2. UV照射光源からの放射される熱の影響

図3:PETフィルムの各厚みにおける変形をもたらさない最低ライン速度
図3:PETフィルムの各厚みにおける変形をもたらさない最低ライン速度

実際のUV照射プロセスにおいては、基材フィルムの耐熱性は、基材フィルムの厚さにも大きく関係する。図3に未塗工の異なる厚みのPETフィルムにUV照射した場合の変形を伴わない最小限の照射ライン速度を調べた結果を示す。照射に際しては、弊社の無電極ランプのHバルブ(高圧水銀タイプ)を用い、ランプ出力は最大の240W/cm、光源距離は、光が最も強く集光する焦点(53mm)に設定した。また、フィルム表面温度は、サンプリング周波数が32Hzの熱電対を用いて測定した。

この図より、厚さ12μmのPETフィルムは、上述のUV照射条件下で、ライン速度30m/min以下の速度では、光源からの輻射熱の影響により変形を起こすことがわかる。

この時の熱電対で測定したフィルム温度は、50℃であるが、ライン速度30m/minで搬送した場合、UVが照射される時間は、約0.05秒であり、熱電対のサンプリング回数が2回以下の状態であるため、その温度の信頼性は高いものであるとは言い難いが、30m/min以下の搬送速度では、フィルムに変形が生じていることは事実として受け止めなければならない。図3より、PETフィルムの厚さが増すにつれ、搬送速度のフィルム変形に対する許容範囲が拡大しているのがわかる。このようにフィルムの変形を基準としてプロセス条件を検討する際には、先に述べた各フィルムの貯蔵弾性率の温度依存性に加え、基材フィルムの厚さも考慮する必要がある。

3. 光源から放射される熱(赤外線発光)成分について

UV照射装置に搭載されている高圧水銀タイプのランプから発する光の波長は、真空紫外を含むUV(<400nm)だけでなく、可視(400nm~800nm)、赤外領域の波長(>0.8μm)の光まで幅広く存在する。この中で、照射対象物が吸収し、発熱作用を引き起こすのは、近赤外以上の波長の光である。図4にUV照射装置に用いられている高圧水銀タイプのランプの発光成分を示した。

図4:UVランプからの発光成分(いずれも高圧水銀タイプからの発光、かつ出力120W/cmのランプからの発光成分)、(a)無電極ランプ、(b)有電極ランプ。

この図からわかるように、各ランプのUV成分の割合、そしてそれに伴うIR発光成分(図中のunknown成分は、測定不能な中~遠赤外の発光成分である。)の割合が、ランプにより異なることがわかる。これら2種類のランプのUV発光成分分率の違いは、主に発光原理の違いと発光管のサイズ(表面積)の違いに起因する。発光管内の水銀蒸気がプラズマ化し、その水銀プラズマが基底状態に戻る際に発する光を利用していることは基本的に同じであるが、これら2種類のランプは、プラズマを生成させる原理が異なる。有電極ランプでは、フィラメントから大量の熱電子が放出され、この電子は、電界により加速され、水銀原子と衝突する。衝突された水銀原子は、電離エネルギーを電子から得ることにより、イオン(プラズマ)化する。一方、無電極ランプでは、マグネトロンから発するマイクロ波(2.45GHz)により、わずかな初期電子(例えばアルゴンから放出される電子)が強力な電界で加速され、水銀原子に次々に衝突電離を引き起こさせ、電子やイオンを急速に増殖させる。従って、無電極ランプ(マイクロ波励起ランプ)では、低電子温度が達成できるとともに高密度水銀プラズマ形成が可能となる。また、発光時の発光管の内部温度は、900℃以上になっており、発光管自体が3~4μmの波長の赤外発光光源となっている。この赤外光の発光量は発光管の表面積に依存し、無電極ランプと有電極ランプの発光管の表面積の差が、赤外発光成分分率の差となっている。このことは、ランプからの温度測定をすることによっても明確となる。

図5は、弊社製無電極ランプ(出力:120W/cm)と有電極ランプ(出力:120W/cm)の照度と温度の比較を示したものである(光量計ならびに熱電対を3m/minの速度でランプ照射面を通過させ測定)。

図5:出力120W/cmの無電極ランプと有電極ランプの(a)照度と(b)温度の比較

無電極ランプと有電極ランプの照度を比較すると、同じランプ出力にもかかわらず照度にかなり大きな差異が認められる。これは、無電極ランプのバルブには、フィラメントがないため、発光管径をある程度まで細くできるためである(この件に関しては、後述する。)。

一方、温度を比較すると、ピーク温度は、発光管内部の水銀プラズマ温度に依存するため大きな差異は認められないが、ランプ下の温度分布は明らかにランプ口径の違いの影響が出ており、有電極ランプでは広範囲に長時間にわたり高温状態が続いていることがわかる。

以上のようにUV照射光源の紫外線発光効率や赤外線放射量は、光源の発光方式によっても大きく異なってくることを認識する必要がある。

4. 光源から放射される熱成分の制御

本章では、UV照射プロセスにおいて光源から発する熱輻射成分を低減する方法を弊社製無電極ランプを例に紹介する。図6に弊社無電極ランプのリフレクター(反射板)の断面図を示した。リフレクターは、楕円の一部を切り取った形をしており、その第一焦点にバルブ(発光管)がセットされるようになっている。バルブから発せられた光の70%は、リフレクターに反射される反射光となり、残りの30%に光が直接照射される光となる。第一焦点にバルブがセットされているため、70%の反射光は、楕円の第二焦点に集光する。

図6:無電極ランプのリフレクターの形状とバルブ径と照度の関係、(a)無電極ランプに使用されるリフレクターの形状、(b)第二焦点における照度のバルブ径依存性、(c)Dバルブ(メタルハライドランプ:ハロゲン化鉄ドープランプ)の各波長領域のバルブ径とピーク照度

したがって、この第二焦点で被照射物を照射することにより、無電極ランプでは高照度のUV照射が可能となる。また、無電極ランプのバルブは電極を持たないため、管径をある程度まで細くすることが可能となる。図6(b)および(c)に示すように、第一焦点にセットされるバルブ径が細くなればなるほど、第二焦点に集光する光量が増すため、細い径のバルブを使用することにより、より高照度のUV照射が可能となる。

このような特徴のある無電極ランプのリフレクターの表面に赤外線を吸収し、紫外線を反射する機能を持つ薄膜を多層蒸着することにより、反射光中の赤外領域の波長の光を紫外領域の発光量に大きな影響を与えることなく低減することができる(図7(a)の左側のリフレクター)。また、直射光の中の赤外発光成分に関しては、図7(b)に示すような透過スペクトルを有するIRカットフィルターをランプ本体に装着することにより低減できる。

図7 (a)IRカットリフレクター(図7(a)左側)とその反射スペクトル(DICHROIC)、(b)IRカットフィルターの透過スペクトル

このようにハード面から赤外線成分を低減することにより、基材フィルム(PET)表面の温度の上昇は、図8に示すように照射光源からの照度にはあまり大きな影響がない状態で、抑制できる。

無電極ランプからの発光に対する本文記載の各IRカット対応による照度変化
図8:無電極ランプからの発光に対する本文記載の各IRカット対応による照度(UVA)変化と放熱による基材フィルム(100μmPET)の昇温状況、ライン速:20m/min、サンプリング周波数1,000Hzの熱電対を用いて温度測定

左から、通常の標準状態(IRカットなし)、リフレクターをIRカット仕様にしたもの、そしてリフレクターをIRカット仕様にしたものに加え直射の光に対してIRカットフィルターを用いたものの基材温度とUVAの照度を測定した結果である。この結果より、光源からの赤外線成分をリフレクターとIRカットフィルーとの組み合わせにより、UVAの照度の低下にあまり大きな影響を与えず、PETフィルムの表面温度を約40℃低下させること可能であることが示される。このようにUV照射光源からの赤外線の影響は、ある程度フィルター等のハードウェアを用いることにより低減できるが、実際のUV硬化プロセスでは、以下に述べる硬化反応に伴う発熱の制御がより重要な課題となる場合が多い。

5. UV硬化反応に伴う発熱とその制御

この章では、UV硬化反応プロセスにおいて観測される様々な発熱現象について紹介する。すべてのプロセスを網羅はできていないが、以下に主要なプロセスにおける発熱状態を示した。

活性種(ラジカル)生成プロセス(光化学的プロセス)

ラジカル生成プロセスの一例として、図9に示すようなベンゾフェノンによる水素引き抜きによってラジカルを生成する(Norrish Type II反応)場合の発熱量を調べる。水素引き抜き反応は、開裂反応と異なりあまり発熱を伴う反応であるイメージではないが、実際は以下に示す熱量計算の結果が示すように発熱を伴う反応である。このラジカル生成プロセスを素反応に分解し、発生する熱量の計算を試みた結果を以下に示す。

図9 ベンゾフェノンによる水素供与体存在下での水素引き抜き反応の反応スキーム

UVエネルギーを吸収したベンゾフェノンは、項間交差によりほぼ100%励起三重項状態を形成する。励起三重項状態のベンゾフェノンは、図9に示すように水素供与体から水素を引き抜きケチルラジカルとなるが、一部は内部変換により熱を放出し基底状態に戻る。この内部変換による発熱は、図10に示すように290kJ/mol程度である。ベンゾフェノンの水素引き抜き反応の全体的な熱収支を図10に示した。

図10:ベンゾフェノンの水素引き抜き反応の熱収支計算
出典:C. Walling and M. J. Gibian, J. Amer. Chem. Soc., 87, 3361 (1965)

図10の左辺と右辺の総和より、最終的なベンゾフェノンの励起三重項状態からの水素引き抜き反応によるラジカル生成の熱化学方程式は、次式のようになる。すなわち、109kJ/molの発熱反応である。

UV硬化プロセスにおける重合熱の発生

ラジカル硬化反応では、開始ラジカルによりアクリル基の二重結合が連鎖的に付加することにより重合が進行する。重合が進行する限り、発生する重合熱を抑制することは不可能である。しかしながら、後述するようにUV硬プロセスにいろいろな工夫を加えることにより、発生する熱による硬化物へのダメージを低減することは可能になる。

図11にアクリル基の付加重合おけるエネルギーダイアグラムを示した。この図より、付加重合に伴うアクリル基からの重合熱は、おおよそ66kJ/molであることがわかる。

図11:アクリル基の付加重合におけるエネルギーダイアグラム

UV硬化材料からの発熱

UV硬化材料を構成する成分の中には、硬化成分以外にUV照射により発熱反応を起こす化合物が含まれることがあることにも注意が必要である。典型的な例として、組成物の中にUV吸収剤を含んでいる場合が挙げられる。そもそもUV吸収剤の役割は、吸収したUVエネルギーを副反応なく100%熱エネルギーに転換することである。従って、UV吸収剤を含むUV硬化材料の照射プロセスでは、材料の吸収スペクトルと使用する光源の発光スペクトルを吟味することにより、このような材料起因による発熱は、ある程度回避できる。図12にUV吸収剤のエネルギーダイアグラムの一例を示した。これは、励起状態でのプロトン分子内プロトン移動を利用したUV吸収剤であり、UVを吸収することにより60kJ/molの熱を放出し、基底状態のもとの構造に戻ることを利用している。

図12:ケト‐エノール互変異性によるUV吸収剤としての機能の発現メカニズム とそのエネルギーダイアグラム
出典:J. W. Kloepffer, J. Polym. Sci., Polym. Symp., 57, 205 (1976)

基材フィルムからの発熱

コーティングや印刷に用いられるプラスチックフィルムもUVを吸収し、フィルムに吸収されたUVエネルギーは、熱として放出される。フィルムのUVに対する吸収挙動は、フィルムの種類により大きく異なるため、あらかじめ使用するフィルムの波長に対する吸収率(もしくは透過率)を調べておくことは重要である。図13にPETフィルムのUV領域の透過率曲線と光源の発光スペクトルを示した。

図13:PETフィルムの透過スペクトルと光源の発光スペクトル、(a) Hバルブ(高圧水銀タイプ)、(b)Dバルブ(ハロゲン化鉄ドープタイプ)

PETフィルムの透過スペクトルからわかるように、310nm以下の波長の光は透過せず完全にフィルムに吸収される。フィルムに吸収されたUVエネルギーは、熱に変換され放出される。図13の2種類の光源の発光スペクトルをみると、310nm以下の波長領域の発光量がかなり異なり、Hバルブの方がDバルブに比べ短波長の発光成分が多いことがわかる。このことは、Dバルブに比べHバルブによるUV照射により、PETフィルムからより多い熱の発生があることが示唆される。従って、硬化材料の吸収スペクトルとのマッチングもあるが、光源の発光スペクトルの選択も硬化プロセスにおける発熱を制御するひとつの要因となる。

6. 熱ダメージを低減するためのUV硬化プロセスの条件

本章では、UVプロセス技術の視点からフィルムコーティングを例にとり、UV硬化プロセスにおける熱ダメージの低減へのアプローチについて述べる。前述したようにUV硬化プロセスにおいて発生する熱は、UV照射光源からの放射熱とUV照射により被照射物から発生する熱に大別されるが、この両方の熱を制御する方法のひとつとして、複数列のUV照射装置を用い、各列の照射装置のUV照射を含むすべてのプロセスパラメーターを独立して制御することにより、段階的に硬化反応を進行させるようなUV硬化プロセスを構築することが提案できる。UV照射機は、理想的には3~4列あると好ましいが、少なくとも2列以上のUV照射装置で段階的にUV照射を行うことが好ましい。いずれにせよ、急速かつ過剰な重合熱の発生を抑制するために第1列目のUV照射装置は、UVランプの光源距離や出力調整により照度を下げて照射を行い、生成する開始活性種濃度を極力抑える必要がある。まず、第一列目の照射により、比較的大きなネットワーク領域を形成し(このシリーズの第一弾のUV硬化反応の概念図を参照)ある程度のミクロ粘度の上昇が達成された後、2列目以降のUV照射では照度を上げ、よりミクロな領域での架橋密度を上げることにより硬化物の物理的な強度や硬度の発現も可能となる。なお、窒素イナート環境下でUV照射を行う場合は、1列目の残留酸素濃度の最適化も過剰な重合熱の発生を抑制するために非常に重要である。

フィルムコーティングにおける典型的な熱ダメージは、シワやストリークのようなコーティングの欠陥として認識される場合が多い。これらのコーティングの欠陥の直接的な発生要因は、UV硬化プロセス中に受ける熱の影響によるものであるが、その欠陥発生の引き金となるもうひとつの原因は、UV照射装置の直下にあるランプからの輻射熱を除熱するための冷却ロール(チラーロール)と基材フィルムの間の空気の巻き込みである。このような空気の巻き込みにより基材とロールとの間に微小な空間が発生し、この空間で基材フィルムは、UV照射プロセス中に受ける熱影響により貯蔵弾性率が低下するため変形を起こす。この基材の変形は、最終的にコーティング剤の硬化により固定されてしまうため、シワやストリークのようなコーティングの欠陥として認識される。このような空気の取り込みによる欠陥の形成を低減するためには、図14(a)に示すような小径の冷却ロールを各ランプ直下に設置し、フィルムの抱き角を極力小さくすることによりロールの基材フィルム保持時間を少なくする。ロール面上でのフィルムの保持時間が(b)の大口径ロールと比べ極端に短くなることから、ロールとフィルム間に巻き込まれた空気もすぐに解放されるため、エアーの巻き込みによる欠陥形成の低減には寄与すると考えられる。

図14:3列仕様のUV照射装置の冷却ロール径と基材フィルム抱き角(フィルム保持時間)の比較、 (a)φ200㎜の小径ロール、(b)φ1,000㎜の大口径ロール

今後、ディスプレイの薄型化に伴い、光学機能フィルムの基材フィルムの薄膜化が進行する中で、本章で述べたUV硬化プロセスにおける発熱現象、そしてそれに惹起されて発現するコーティング欠陥を最小限の抑える機械仕様を含めたUVプロセス技術の視点からの提案が、今後の機能性フィルムの開発の一助になれば幸甚である。