UV硬化プロセス上で直面する色々な課題とその解決策
その1:UV硬化反応の基本的概念

1. はじめに

図1:UV硬化プロセスにおける課題
図1:UV硬化プロセスにおける課題

紫外線の照射により、材料が瞬時に“乾く”というUV硬化型インキが印刷市場に紹介され、半世紀以上が経過した。この間、UV硬化材料は、印刷分野のみにとどまらず、多方面への応用展開が図られ、UV照射により単に“乾く”という現象を目指した当初の材料から、新たな付加価値を生み出す機能材料へと変貌してきた。UV硬化材料を用いた製造プロセスは、今日ではフラットパネル・ディスプレイ(FPD)等に使用される光学機能材料製造プロセスにとっては不可欠なプロセスとなっている。また、近年は、液晶や有機EL(OLED)のパネルアッセンブリー・プロセスにおいても、Liquid Optical Clear Adhesive(LOCA)によるパネルボンディングが採用されることにより、UV硬化技術の応用分野は、かつての中間コンバーティングの分野から、より最終製品に近い“川下の分野”にも広がってきている。

このように応用分野を広げてきているUV硬化技術ではあるが、誕生して60年以上も経過する技術であると往々にして成熟技術であると見られがちな場合が多い。しかしながら、実際のUVプロセス技術に携わる立場からこの技術に接すると、常に解決しなければならない課題が存在することに気づかされる。弊社は、UV照射装置の光源メーカーであるが、光源は単なる道具にすぎず、道具だけで“ものづくり”ができるわけではなく、光源ならびに材料とそれにあった最適なプロセス条件を確立することによって、はじめて目的とするものを得ることができると考える。

弊社では、この度UV硬化プロセスに関する課題をこの技術に携われるお客様からお伺いする機会を得たが、その内容を分類すると、図1のようになる。この中には、ランプ本体のハードウエアに関するものもあるが、UV硬化プロセスにかかわる課題も少なくない。そこで本稿では、これらのお客様からのお問い合わせを頂戴いたしました課題に対して、UVプロセス技術の立場から、最適なUVプロセス条件を構築するために提案できる対応策を述べる。

2. UV硬化反応の基本的な概念

第一弾の本稿では、まずUV硬化反応の基本的な概念を明確にしたうえで、この反応を制御するパラメーターについて述べる。

UV硬化反応とは、一言でいうと、“光開始重合による三次元の架橋反応である”ということができる。まずUV照射によりUV硬化材料中に存在する光重合開始剤がUVエネルギーを吸収し、重合開始活性種(ラジカルや酸)を生成する(この光化学的な開始メカニズムについては、また別の機会に説明する。)。このプロセスのみにUV照射光源が必要となる。一旦、開始活性種が生成すると、あとは熱重合とまったく同じメカニズム(重合成長反応)で重合(架橋反応)が進行する。硬化初期の状況をイメージ図で示すと、図2のようになる。

図2:.光開始重合による時間分割架橋反応(UV硬化反応)進行のイメージ図

硬化反応のもっとも初期段階は、UVエネルギーを吸収して生成した開始活性種の発生点からの付加重合(もしくは、カチオン重合の場合は、開環重合も含まれる)の開始段階であり、活性種生成点からのミクロゲルの生成段階である(a)。この状態は、UV反応性樹脂媒体の一部の開始活性種の周囲にミクロゲルが形成されているような状態である。そして時間の経過とともに、光を必要としない熱的な暗重合が進行し、このミクロゲルがマクロゲルへと生長する(b)。そしてさらに時間が経過すると、生長末端ラジカル同士の再結合等の停止反応が起こり、架橋反応が完結する(c)。この重合による架橋反応により、それまで液状(低Tg)であった材料が、UV照射により瞬時に固体(高Tg)に変化(相転移)することから、この架橋反応をUV硬化反応と呼ぶようになった。図1のイメージから、UV硬化反応により形成される硬化物の架橋密度は、重合開始点の数(開始活性種濃度)に依存し、かつそのミクロ構造は、開始点を中心とした不均一性の高いものであることがわかる。これらのUV硬化反応ならびにその硬化物のミクロ構造の特徴は、熱硬化反応ならびにそれにより得られる硬化物のものとは大きく異なるものであり、これらの特徴を理解することは、以後に述べるUV硬化プロセス上の課題を理解するうえで非常に重要である。

3. UV硬化反応の制御パラメーター

先述したように、UV硬化反応は、光開始重合による三次元の架橋反応であるため、得られる硬化物の架橋密度や架橋領域(架橋ドメイン)のサイズは、反応系内に生成する開始活性種の濃度と総数に依存する。そのため、UV硬化プロセスでは、UV照射光源から照射される光子(フォトン)の単位時間当たりの濃度(照度)と総量(積算光量)により開始反応を制御する。光化学の世界では、1モルの光子を1アインシュタインと定義し、化学光量計等を用いて光子濃度と総量を測定するが、産業界では照射光子総量(積算光量)をエネルギーとして扱い、単位系としてはJ(ジュール)を用い、単位時間当たりの光子の濃度(照度)は、その時間微分単位であるW(ワット)を用いるのが通例となっている。

従って、UV硬化プロセスにおいて、照射するUVを制御するパラメーターは、単位面積当たりの照度(W/cm2)と積算光量(J/cm2)ということになる。照度をコントロールすることにより、単位時間あたりの反応系内に生成する開始活性種濃度が制御できる。系内に発生する活性種濃度を制御することにより、硬化物の架橋密度とひとつの開始活性種により形成される架橋領域(ドメイン)のサイズが制御できる。すなわち、高照度のUVを照射することにより、形成される硬化物の架橋密度は高くなり、個々の架橋領域のサイズは小さくなる。一方、低照度のUV照射では、形成される架橋密度は低くなり、架橋領域のサイズは大きく生長する。これは、ラジカル重合において、開始活性種濃度と得られるポリマーの数平均分子量との関係と同様である。

また、照度に照射時間を乗じて得られる積算光量(すなわち、J = W x s (秒))は、照射時間内に反応系内に生成する総開始活性種数を制御するパラメーターであり、これによりUV照射時間中に形成される全架橋領域の数を制御することができる。実際のUV硬化プロセスでは、UV照射によって得られる硬化物の特性の最適化をこれら二つのパラメーターを駆使して行うこととなる。

4. UV硬化反応への照度の影響

図3:光重合開始剤:ヒドロキシシクロへキシルフェニルケトン(HCPK)
図3:光重合開始剤:ヒドロキシシクロへキシルフェニルケトン(HCPK)

ここでは、UV照射照度の硬化反応に与える影響を調べた結果を紹介する。反応系としては、高粘度の平均官能基数が3.5であるウレタンアクリレートを用いた。この系に光重合開始剤として、図3に示すようなヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(CHPK)を4%添加した。

UVの照射条件としては、照度を1,630mW/cm2(高照度)と180mW/cm2(低照度)の2条件を設定した。すなわち、高照度の照射では、単位時間当たり約10倍近い光子濃度でUV照射を行うこととなる。UV照射に際しては、高照度、低照度ともに照射する総光子量(積算光量:mJ/cm2)は同等にした。UV照射後、FTIR(フーリエ変換赤外分光法)により照射物の810cm-1付近のアクリル基CH変角振動の吸収の減少量を定量することにより、それぞれの照射エネルギーにおけるアクリル基二重結合の転換率(反応率、Conversion)を求めた。また、反応系として用いたウレタンアクリレートが高粘度であったので、硬化反応性の温度依存性に関しても同時に調べた。図4に25℃ならびに80℃において、高照度ならびに低照度で照射した際に得られたアクリル基二重結合の転換率の照射エネルギー依存性を示した。

図4:ウレタンアクリレートのアクリル基二重結合の転換率のUV照射エネルギー依存性:(a) 低照度(180mW/cm2)照射、(b) 高照度(1,630mW/cm2)照射

この結果より、高照度照射によりもたらされるいくつかの特徴的な点が見受けられる。まず25℃における結果では、高照度照射により低照度に比べ、高いアクリル基二重結合の転換率が観測される。高照度照射により、反応開始活性種濃度が約10倍高いため、ウレタンアクリレートのような高粘度な反応系では、二重結合転換率を上げるのには優位に働くと考えられる。今回の結果では、全体的に高照度照射によって得られる二重結合転換率は、低照度照射により得られるものに比べ、約10%高い転換率を示しているが、より特徴的な点は、照射初期段階(低エネルギー領域)において、より高い転換率(約20%)を示している点である。これは、硬化初期段階に開始活性種濃度を上げることにより、重合生長反応が架橋反応の進行に伴う反応系のミクロ粘度の上昇の影響を大きく受ける前に進行するためと考えられる。

ウレタンアクリレートのような高粘度の反応系では、UV照射によるアクリル基の転換率の温度依存性が、顕著に現れる傾向にある。80℃における転換率を比較すると、照射初期段階では、高照度照射の初期段階では、低照度照射に比べ高い転換率を示しているとともに25℃での状態に比べてもさらに約10%程度高い転換率を示している。これは、昇温により反応系の粘度が低下することにより、アクリル基の拡散速度(モビリティー)が増加し、付加重合の進行が加速されるためである。高温条件下では、照射エネルギーを増加することにより、低照度でも高照度でも重合可能なアクリル基は、ほぼすべて重合し、UV照射光源の照度の差は、転換率にはほとんど反映されていないことが示されるが、低照度によるUV照射のほうが、アクリル基の転換率の温度依存性がより顕著になっていることが理解できる。このことは、次に示す図5により、より明確になる。図5では、低照度、高照度ともに照射エネルギーを一定の450mJ/cm2を照射した場合に得られたアクリル基の転換率の温度依存性と反応系であるウレタンアクリレートの温度-粘度カーブを共に示した。

図5:UV照射エネルギーを450mJ/cm2に固定した際の低照度ならびに高照度照射により得られるアクリル基二重結合転換率の温度依存性とその時の反応系であるウレタンアクリレートの温度-粘度カーブ

この結果のさらに興味深い点は、80℃以上の温度、すなわち反応系の粘度が約2,000cPs以下の領域では、アクリル基の転換率にUV照射照度の依存性がほとんど認められない点である。このことは、UV硬化材料の組成設計の上での一つのヒントとなるとともに、生産技術上では、UV硬化プロセスの安定化を検討する上での知見となると思われる。

以上述べてきたように、高照度のUV照射は、反応系中のアクリル基の二重結合の転換効率を上げるには、有効な手段となる。例えば、多官能アクリルモノマーを含み、アクリル官能基濃度の高いハードコート剤等の硬化では、架橋密度を上げて硬度を得るための手段として高照度UV照射が有効に働く。

しかしながら、どのようなUV硬化技術の応用分野でも高照度のUV照射が有効に働くというわけではない。その一例として、高アクリル当量のオリゴマーや単官能モノマーなどで構成される(すなわち、系内の官能基濃度が低く、かつ架橋点数の少ない系)UV粘着剤のような反応系が挙げられる。このような反応系では、生成するポリマーの分子量(ネットワークサイズ)を如何に大きく生長させることができるかがUV照射条件を設定する重要な点となる。図6に高アクリル当量オリゴマー/単官能モノマー系にUV照射した際に得られるポリマー収率の照度依存性を示した。

図6:高アクリル当量オリゴマー/単官能モノマー系におけるポリマー収率のUV照射照度依存性

この図から、UV照度が低下するにつれて、明らかに生成するポリマーの収率が増加していくことがわかる。このような低官能基濃度の反応系では、高照度UV照射により生成する高濃度の開始活性種(この場合はラジカル)により、もともと生成するポリマーの分子量が低下することに加え、ポリマー生長反応においてポリマー末端の生長ラジカルが、新たに高濃度に生成した開始活性種と再結合を起こし、生長反応を停止させてしまうためと考えられる。従って、このような低官能基濃度の反応系では、低照度で長時間UV照射を行うことが効果的であるが、現実には生産性との兼ね合いがあり、適切な照度をプロセス上設定する必要がある。もしUV照射照度が調節できない場合は、UV照射プロセス自体に少し工夫を施す必要がある。

以上、この章ではUV照射プロセスを制御するためのパラメーターについて述べてきたが、これらのパラメーターは、架橋密度やネットワークサイズを決定するだけでなく、後述するようにUV硬化プロセスにおいて発生する熱の制御パラメーターとしても重要である。