UV硬化プロセス上で直面する色々な課題とその解決策
その3:UV照射による黄変現象の発現について

1. はじめに

UVプロセスにおいて、しばしば観測される現象のひとつに硬化物が黄色く着色する“黄変”現象がある。この黄変は、UV照射後、時間の経過とともに消色するものもあればしないものもある。本章では、いくつかの黄変の原因となる現象を取り上げ紹介する。

2. 硬化物の末端の共役構造が広がり、可視領域に吸収帯を生じる場合

一般的にラジカル硬化反応によって得られる硬化物の末端には、図1(a)に示すような光開裂等により生成した開始ラジカルに起因する構造が存在する(図1(a)の場合は、フェニルケトン基)。このような構造は、硬化物の末端に開始剤が付加している状態であると考えられ、再びUV照射されるとフェニルケトン中のカルボニル基が励起され、n⇒π*遷移状態となる。この励起されたカルボニル基は、立体配座的に良好な位置にある*位の水素を引き抜く。水素を引き抜かれたこの位置の炭素ラジカルは、空気中の酸素と結合し、過酸化物を生成する。生成した過酸化物は、さらに分解し、分解したラジカルによる更なる水素引き抜き反応が起こり、図1(b)に示すような新たなカルボニル基が生成する。これにより、図1(b)は、末端部分の共役が伸び、可視領域の青色の光を吸収するようになるため、硬化物からの反射光は黄色く変色したように目に映る。

図1 UV硬化物の末端の共役結合の広がりによる黄変の発現

図1:UV硬化物の末端の共役結合の広がりによる黄変の発現、(a)末端に付加したベンゾイル中のカルボニル基による分子内水素引き抜き反応の開始、(b)水素引き抜き反応のあと、酸素による過酸化物生成、そしてその分解と水素引き抜き反応によるカルボニル基の生成。

3. 光重合開始剤に起因する黄変現象の発現

UV硬化材料中に含まれる光重合開始剤は、構造的に黄変を引き起こすリスクを備えている場合が多い。開始剤の種類により、黄変を発現し易い開始剤と、し難い開始剤が経験的に知られているが、基本的に開始剤による黄変現象の発現は、開始剤の反応系内での溶解状態に大きく依存する。図2に開始剤起因で発色するメカニズムについて、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンの光開裂反応の例を取り上げ紹介する。

図2 2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンの光開裂により生成する2種類のラジカルの再結合により黄変を発現する生成物の生成メカニズム

図2:2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンの光開裂により生成する2種類のラジカルの再結合により黄変を発現する生成物の生成メカニズム

この図からわかるように、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンの光開裂では、まずベンゾイルラジカルとジメトキシフェニルラジカルの2種類のラジカルが生成する。通常の硬化反応では、これらの開始ラジカルは、それぞれ反応系中のアクリル基に付加し重合を開始する(ただし、ジメトキシフェニルラジカルはさらに分解反応が進行し、最終的にはメチルラジカルが生成し、重合を開始するとされている。)。しかしこれらの開始反応は、あくまでこの開始剤が反応系内に均一分散し、ラジカル生成後、近傍にアクリル基が存在する場合である。開始剤の反応系への溶解性があまり良好でなく、ミクロ領域で凝集状態を作っている場合は、重合を開始するよりも、より反応性の高い開始剤ラジカル同士の再結合(カップリング)を起こす確率が高くなる。その結果、ベンゾイルラジカル同士が再結合し、可視領域に吸収帯を有するベンジルを生成する。そして、ジメトキシフェニルラジカルは、分子内ラジカル移動を経て同様にラジカル再結合を起こし、図2に示すような着色化合物を形成する。これら2種の化合物は、いずれも可視光領域内の青色領域の光(400~450nm)を吸収するため、硬化物は黄色く見える。

4. アミン系添加物による黄変現象の発現

図3:アミン系化合物の黄変メカニズム
図3:アミン系化合物の黄変メカニズム

UV硬化材料の中には、生成するラジカルの重合開始能を向上するためや、開始剤に対する水素供与体として、アミン系の添加剤が使用されているものがある。一般的には水素供与性の高い三級アミンが良く用いられるようであるが、このアミン添加剤もUV照射により黄変現象をもたらす要因となる。図3にアミン系化合物から黄変発現物質生成のメカニズムを示した。励起された開始剤等から水素を引き抜かれたアミン系化合物ラジカルはモノマーに付加し重合を開始するが、一部は図3に示すように空気中の酸素と結合し過酸化物ラジカルとなる。このあとこの過酸化物ラジカルは、酸化と分解を繰り返し、最終的に有色の酸化窒素化合物が生成する。この化合物により、可視光中の青色成分が吸収されるため、UV照射により得られた硬化物は、黄色く見える。

以上、3種類の事例について、黄変現象の発現メカニズムについて述べた。これらの事例以外にも、硬化材料組成物そのものがUV照射により着色化合物を生成する場合や、材料中に存在するフェノール性水酸基を有する安定剤が錯体を形成して着色するような事例もある。黄変現象が観測された場合、その原因を突き止め解決策を探るのは決して容易なものではないが、少なくとも黄変の発現に酸素が関与しているか否かは、比較的容易に見極めることができる。もし、イナート環境下では黄変現象が観測されないとなると、UV硬化プロセスをイナート環境下で行う必要性が出てくる。そしてもし、イナート環境下でも黄変現象が観測されるのであれば、使用している光重合開始剤や硬化材料中に含まれる化合物に起因する可能性が高く、これらの材料の反応系中での溶解性の検討等を含め、樹脂組成の再検討が必要となる場合が多い。

(その4へ続く)